深部静脈血栓症
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深部静脈血栓症とは?
骨盤の中の太い腸骨静脈や大腿静脈・下腿静脈など、筋肉の間にある深部静脈に血栓ができた場合、心臓に向かうはずの静脈の血流が止まってしまいますので、下肢に急激に血液がたまり、強い痛みが出たりぱんぱんにはれたりします。
原因不明のこともありますが、後で説明するように、手術やその後の安静が原因となることもあります。
また、血栓でつまった太い静脈を迂回するバイパスとして、表在静脈が静脈瘤のようにふくらんだり、血栓で静脈の弁が引き延ばされて壊れることにより、二次的に静脈瘤がみられることもあります。このような状態は「静脈血栓症後症候群」と呼ばれますが、その結果として静脈のうっ血が続くため、後述するようなさまざまな合併症がみられることがあります。
術後深部静脈血栓症
全身麻酔で腹部・胸部・関節などの手術など受けた後に深部静脈血栓症が発症することがあり、術後の合併症として重視されています。 特に肥満した方や術後の安静時間が長い方の場合などには、静脈が圧迫されて血栓ができやすいので、手術中から血栓症の予防を行うことが勧められています。
平成16年に術後静脈血栓症を予防するため、弾性ストッキングが保険適応になっています。
肺塞栓症
下肢や骨盤の中にできた血栓が肺に流れ込み、肺の血管がつまってしまう病気を「肺塞栓症」と呼びます。一般には「エコノミークラス症候群」(ロングフライト症候群)の病名で知られています。 肺に流れ込んだ血栓が大きいと、心臓から肺に送られる肺動脈がつまって急死することもあります。一方、小さな血栓でも流れ込む数が多いと、肺に広範囲のダメージを与えて肺のはたらきが慢性的に悪化することがあります。
このようなリスクがある時は、薬によって血栓を予防したり、下大静脈フィルターと呼ばれる傘のような形の装置を下大静脈に挿入して、流れてくる血栓を取り除いて肺塞栓を防ぐ処置も必要となります。
深部静脈血栓症の症状
静脈血栓症が急に発症した時には、突然の急激な痛み・皮膚色の変化(赤黒くなる)・冷感が特徴的です。しかし、静脈のどの部分が詰まったかによって症状は異なります。
急性期を過ぎると、一般的な静脈性のうっ血による症状がみられます。
夕方になるとむくみが強くなり、静脈の血液がたまるため、皮膚の色が青紫色になることもあります。また、下肢のだるさや疲れやすさもみられますが、むくみの程度が強くなると、夜間や朝方に足がつりやすくなるのも特徴です。
症状は静脈瘤による症状よりも強いことが一般的です。
深部静脈血栓症の合併症
圧迫療法などの治療を行わなければ慢性的にむくみが続き、皮膚の変化を中心とする以下のような合併症がみられてきます。
1:色素沈着
静脈の血液がたまって毛細静脈がつまってしまうことがあります。皮膚が赤黒くなり、色素沈着という状態になります。
2:うっ血性皮膚炎
毛細血管から白血球成分が漏れ出し、漏れ出した白血球成分から放出される炎症性物質により、アレルギーのような皮膚炎の症状がみられます。同時にかゆみも強くなりますが、かゆみでひっかき傷ができると炎症はさらに広がり、色素沈着も強くなります。
3:皮膚の硬化
炎症や皮膚炎をくり返すことによって皮下組織に硬い線維が増え、皮膚や皮下組織が硬くなっていく状態です。リンパ浮腫と同じような皮膚となることもあります。
4:皮膚潰瘍
皮膚炎でかゆみが強いところをひっかいて傷ができた時、むくんだ皮膚は傷の治りが非常に悪くなります。そのため、傷が次第に大きくなり、最終的にはただれて皮膚潰瘍となります。
また、むくみが強いと、傷はしばしば周囲からひっぱられて大きくなってしまいます。そこで、十分な圧迫を行ってむくみを減少させながら、傷の処置をする必要があります。
深部静脈血栓症の治療
1:急性期
急に発症した深部静脈血栓症では、血栓が進まないように血栓を溶かすような治療を行います。その際に血栓が肺に流れて肺塞栓症を起こさないように入院治療を行うことが一般的です。
肺塞栓の危険性があれば、「下大静脈フィルター」を挿入します。
血栓の状態が安定して痛みなどの症状が軽減すれば、退院して内服治療で血栓が増えないようにします。
2:慢性期
血栓が安定しても、いったん血栓で壊れた静脈は元に戻らず、むくみが強く出ることがあります。内服薬で弁を元に戻すことは不可能です。
むくみが続くと先に挙げた合併症がみられてしまいますので、圧迫療法を行います。
圧迫療法はリンパ浮腫と同様に行います。具体的な方法についてはリンパ浮腫の項を参考にしてください。